*Prove of truth*
〜証し〜




満月に誓いを立てよう
どんなに形を変えようと
再び満ちてふたりを照らすよう
想いがそこへ還るよう
ふたりが向き合うそれが真実



泣き腫らしたりんの顔は幾分青白かったが
いまはさっぱりと落ち着きを取り戻していた。
自分が子供であったこと、子供のままでいたかったことがわかった。
昔のままで傍にいたかった。でももうそれはできないのだ。
ずっと前から知っていたのだ。当たり前すぎたそのことを。
あのひとを出会ったときから愛していたことを。
心はずきずきと痛んだがこのまま放って置くこともできない。
でも殺生丸さまに何と告げればいい
私をどうして欲しいと願うのか
あのひとが私以外のひとを選んだら傍にはもう居られない

翌日の夕刻、気分が優れないと部屋に籠もっていたりんのところへ
冬夜が帰るので挨拶するようにと言われた。
仕方なくなるたけ冷静にと心を鎮めて足を運んだ。
冬夜はまた嬉しそうにりんを見つめた。
「ああ、良かった。もう会ってくれないかと心配したわ」
「もう帰るけどまた会ってお話しましょう、りん。」親しげにそう言った。
その笑顔に悪意はなく、りんは胸が痛んだが美しいその妖怪を嫌いにはなれなかった。
「はい。冬夜さまもお元気で、またいらしてください。」なんとか微笑んで言えた。
冬夜はつと真面目な表情でじっとりんを見つめると
「ええ、あなたに会いにね。りん、あなたに会えて良かったわ」
殺生丸に何処となく似たそのひとが真剣な目つきでりんを見つめると
そのひとを思い出してはっとする。そしてその視線が気になった。
「私に、ですか」りんは訊いてみた。
「そう、あなた」冬夜は痛いほど見つめてくる。
「なぜですか」ゆっくりとりんもまた真剣に冬夜を見つめた。
ほんの少し目を緩めそこだけで微笑むと、眼を伏せてまたゆっくりと開けりんを見た。
「殺生丸を変えたあなたにどうしてもね。」彼女の瞳が哀しげに揺れたように見えた。
「わたしが殺生丸さまを、変えた」りんはそうだろうかと自問してみる。
「そう、本人は自覚ないけどね。」哀しげに思えた瞳がくるっとまた元の明るさを取り戻す。
「とにかくね、私は人間だろうが彼を変えたあなたを尊敬するわ。」
「またね」そう言うと彼女はりんのあごをひょいとつかんで頬に長く口付けた。
びっくりして顔を赤らめるりんをおもしろそうに見つめてまた笑った。
「ふふ、あのね、あなたはとても好い匂いだわ。口付けはおみやげに貰っとくわね」
「あああの、?訊いてもいいですか。」女性とはいえ、あのひとに似た瞳に戸惑った。
「どうしたの?愛ではなく親しみを込めたんだけど」愉快そうに笑う冬夜だった。
「口同士でする口付けは特別なんですか?」りんがそんなことを訊くのでますますおもしろそうだった。
「くくっ、苦しい。りん、殺生丸にはまだなんにも教えてもらってないんだ!」
冬夜がお腹を抱えて笑いをこらえるのを”なんで?”と思いつつ、答えを待った。
「あの殺生丸が・・・ううう、も我慢できない!」とうとうわははと笑いだしてしまった。
「冬夜さま?大丈夫ですか。」おろおろするりんを横目で見ると、
「ああ、可笑しい。ごめんね、りん。あいつらしくもないほんとに。」
「殺生丸さまがですか?」りんは途惑いがちに言ってみた。
「自分を抑えてあなたをじっと待ってるなんて信じられないわ、まったく」
りんはほんとうは殺生丸のことが好きかと尋ねたかったのだが出来なかった。
訊かなくとも先程の冬夜の視線で答えはわかっているように感じたからだ。
「そう、特別よ。」「もうこれ以上やってられないから帰ろうっと。」
「おみやげ追加しとくわ」冬夜はすばやく今度はりんの唇を奪った。
ぽかんとあっけにとられるりんを残し、すばやく飛び上がり「じゃあねえー」と去っていった。
入れ違いに覚えのある気配が湧き起こり、殺生丸が現れたのをりんは不思議そうに
それと今の口付けを見られたのかしらと恥ずかしく思ってしばらく黙っていた。
すると殺生丸がりんの顔を覗き込んだと思うとまたもや唇を今度は強く押し付けられた。
りんは唇が離れたとたん次は頬に降ってきたのを感じつつ
「殺生丸さま」と怒ったように彼の厚い胸を押し戻した。
「りんに触れるなと言っておいたものを」なにやらこちらも怒っているようだった。
「殺生丸さま?」
「あれはすぐああして触るやつだ。あまり傍へよるな、りん」
「・・・なぜ、りんは殺生丸さま以外のひとと口付けしてはいけないの」
「私のほかともしたいのか」
「ううん。なぜ怒っているの?りんは殺生丸さまが冬夜さまと口付けしたら哀しかった。
「あいつなぞとはしない。」「あれはおまえが来るのを知ってからかったのだ」
りんは驚き目を見開き、「どうして」と尋ねる。
「・・・知らぬ」「だからもう来るなと言った。」
りんはやはり冬夜が殺生丸を想っていることを感じた。胸が痛んだ。
「私はどうしてかわかるよ、殺生丸さま。」
「私も同じだもの。殺生丸さまが好き」「とても」
切ない女の表情を見せるりんに驚きと期待が呼び覚まされる。
「やっと気づいたのか」と言ってみる。
りんは否定もせず「殺生丸さまはいつからりんが好き?」
「忘れた。」「だが今もこれからも」
「おまえを愛している」とても静かで、けれど響く声だった。
「・・・はい」「私もずっとずっと・・・」りんの眼から零れ落ちる涙が遮った。
涙はあとから溢れたがりんは懸命に眼の前の瞳を見つめ返した。
そっと優しく、とてもゆっくりとりんの身体が抱き寄せられる。
いままでと違う意味のこもった口付けにりんは身体中で感じ震えた。
触れ合うだけでなくそうっと深く忍び込むように奥へ
初めてだというのに懐かしいようなまつげの先まで震えるような
甘く儀式めいた口付けをりんは身体ごと預け受け入れる。
涙がとまらず、痺れた舌と唇を指で抑えようとしたが
頬の涙も痺れる唇も再び殺生丸のそれで優しく繋がれる。
ふと愛しいひとの頭上に満月が顔を見せていた。
寂しいと見上げる空に探す事はりんの癖になっていた。
だがもう探さないかもしれないと思った。
遥か遠いと思っていた月はいまりんの胸に奥深く灯りをともし
これからも輝き続けるから。
いつまでも抱き合い寄り添う二人を照らす月の光
二人はようやく同じ場所へたどり着き
想いの距離を零にした。


あの月に誓いを立てよう
どんなに遠く離れても
再びあなたに出会うよう
想いがあなたに還るよう
ふたりを照らす月の光が
愛し合う真実を映す証し